星は元素を介して、「遺伝」を行っている
ビッグバン元素合成では、最終的に原子番号1番の水素から、原子番号5番のホウ素(B)までがつくられました。それから1億5000万年ほどの時間がたつと、それらの元素の一部が集まって巨大化し、恒星がつくられます。これらの恒星の内部でも、元素の合成が始まります。これが「恒星内元素合成」です。
星は水素を燃料としてヘリウムを合成し、さらに巨大となります。すると、自分自身の重力によって内部が圧縮されて、3つのヘリウムから原子番号6番の炭素(C)が合成されます。地球の科学者はこの炭素が合成されるしくみをなかなか解明できず、苦労しました。そして、炭素がさらに燃焼して、より原子番号の大きい(これを「重い」といいます)元素が、次々と連鎖的に生成されていったのです。
炭素より重い元素ができる反応が起こるためには、太陽の大きさでは不十分で、太陽の3倍以上の質量が必要であるといわれています。星のタイプでいえば、OB型以上の「重量型」です。
こうして恒星でできる元素は、じつは原子番号26番の鉄(Fe)までです。ラクビーなどで、密集して力を一つにまとめるときに「鉄のスクラム」といいますが、まさに鉄は星の最も中心で形成される、最強に固く安定した元素です。これ以上に重い元素は、恒星内元素合成でつくることはできません。
しかし、原子番号が鉄よりも大きい元素はたくさんあります。それらはどこでできるのかというと、じつは鉄までの元素をつくった星が死ぬことでつくられるのです。つまり恒星がその寿命を終えて「超新星爆発」を起こして死ぬ、その過程で合成されます。これを「超新星元素合成」といいます。
なんとなく豪華な感じのする名前ですが、実際このとき、いわゆる貴金属とされる銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)なども形成され、最終的に92番のウラン(U)までがつくられます。
原子力エネルギーで利用される元素ですね。星の死に際の爆風の中で、新たな元素が生みだされ、宇宙空間へまき散らされて、それが新たな星や、惑星や、ひいては生命の原料となり、私たちを含めたすべての宇宙人をつくっているわけです。そう考えると、星は元素を介して、ある意味で「遺伝」を行っているようにも思えます。
ウランより重い元素については、基本的には自然界に存在しないと考えられています。しかし、陽子や中性子の組み合わせで理論的には存在が予言されていて、実際に地球では人工的につくりだされています。有名なものには原子番号94番のプルトニウム(Pu)があり、現在は118番のオガネソン(Og)までが発見されています。