地球の生物はなぜ左右対称か
そもそもは地球でも、生物が左右対称であることは普通ではなかったようです。
ではどうだったかといえば、ある点を中心に180度回転しても同じ形になる回転対称のような形の生物や、中心の点から足が放射状にいくつも伸びているような放射相称の生物などがいました。現在も、ウニやヒトデなどの仲間にそういう生物が見られます(図1)。
しかし地球では、ある事件を境にして、左右対称の生物が圧倒的に優勢になりました。それが約5億5000万年前に起こった「カンブリア紀の大爆発」です。
このとき、それまでの生物のほとんどは絶滅し、新しいタイプの生物が一気に地球を席巻しました。現在の地球生物のほとんどはこのときに出現したものです。そして、その多くは左右対称だったのです。
なお、生物において左右対称とは、正確にいえば、身体の前面と背面の中央を頭から縦にまっすぐ通る線(正中線)を引くと、左右が鏡合わせのように合わさることです。そして前と後ろは対称ではありません。つまりそれは、「前後」というものをもっている生物ともいえます。
図1のような生物には「前後」はありません。彼らはおそらく、海底でじっとしていることが多かったのでしょう。
それに比べ、カンブリア紀の大爆発以降の生物は、みずから獲物に向かっていくようになったため「前後」ができたと考えられます。さらに獲物を見て、匂いを嗅ぎ、攻撃するために、眼や鼻や口などの器官が身体の前面に集まって、「顔」ができました。
では、地球の生物は「前後」ができただけではなく「左右対称」になったのはなぜでしょうか。それについては、このようなことが考えられます。
じつは地球のすべての脊椎動物は、感覚情報の入力の左右と、出力の左右とが交差するように配線されています。たとえば、魚が敵の存在を両眼のうち左側の視野で見つけたとします。するとその情報は、脳の右側の視覚神経に入力されます。そして脳からは「逃げろ」という指示が、筋肉の左側に出力されるのです。
一見、配線ミスのようですがこれは合理的なシステムで、状況判断は危険から遠いほうの脳が安全に行い、実際の逃避行動は危険に近い側の筋肉が迅速・正確に行えるようになっているのです。