マンホールに集まる冬の小鳥

「このウグイス、どうしたのかな……?」と、我が目を疑いつつ写真を撮ろうとしたが、近すぎてシャッターが切れない。そっと後ずさりしてシャッターを切った。なんと、近づいてきたのはウグイスだけではない。ジョウビタキやアオジ、メジロなども生け垣に集まってこちらの様子をうかがっている。冬鳥たちの様子がいつもとは違うのである。

足元まで接近したジョウビタキが目の前の下水のマンホールの上に乗った。分厚い鉄の蓋の上で何かをつつきはじめた。蓋には小さな穴が2ヵ所あり、穴を覗き込むようにして再び何かをつついている。

穴に頭を入れてユスリカを捕らえるメジロ(写真・唐沢孝一)

ジョウビタキの行動を見て、ようやく気がついた。マンホールの蓋の穴からユスリカが次々と飛び出ていたのだ。小鳥たちのお目当ては冬季にマンホール内で発生するユスリカであった。入れ代わるようにメジロが飛来し、蓋の穴の中に頭を突っ込んでユスリカを捕食する。食べるのに夢中のあまり、人が接近しても全く意に介さない。

ウグイスがなぜ芝生に降り、筆者のほうに近づいてきたのかがようやく理解できた。筆者がたまたまマンホール蓋の上に腰を下ろしていたのであった。

この公園で暮らすジョウビタキやウグイス、メジロにとって、マンホールで発生するおびただしい数のユスリカは自然の恵みである。餌不足の1~2月を乗り越えるうえでこれ以上のご馳走はないであろう。

 

※本稿は、『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)の一部を再編集したものです。


都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)

都市を舞台に繰り広げられるカラスと猛禽類(オオタカやハヤブサ)のバトル、人と共存してきたスズメやツバメの栄枯盛衰、都市進出の著しいイソヒヨドリ――本書は、これら都会に生きる鳥たちの生態を通して、都市とは何か、都会人とは何か、変化する鳥と人との関係などを紹介する。都市環境に適応して生きる鳥たちのしたたかな生態を解説するとともに、巨大都市東京の変貌をひもとく、都市の自然誌でもある。