ユスリカをキャッチするジョウビタキ(写真・唐沢孝一)
人以外の生物にとっては棲みにくいはずの都市に、近年多くの野鳥が進出しています。希少種として保護活動が行われていたタカ類までも、都心で繁殖するようになりました。ヒヨドリやキジバト、キツツキ類のコゲラや磯にすむイソヒヨドリまで都会で子育てをはじめました。東京都心や千葉県市川市を中心に、半世紀以上にわたって都市鳥を観察してきたNPO法人自然観察大学学長の唐沢孝一さんが分析した、人と鳥との関係性の変化とは――。

「ロンドンと東京」のスズメ

スズメは日本人をどう見ているのだろうか? そんなことが気になったのは、都市鳥研究のためにロンドンを訪ねた1990年夏のことであった。

ロンドン中心部のセント・ジェームズ公園の一角で大勢の人が手を差し出している。いったい何をしているのだろうか。しばらくすると、スズメ(イエスズメ)が飛来し、手に乗って餌を食べはじめた。人を恐れずに手に乗るなど1990年代の日本では考えられないことであった。

手のりのイエスズメ(ロンドン・セント・ジェームズ公園。1990年8月22日)(写真・唐沢孝一)

日本のスズメは人への警戒心が強く、人の姿を見ただけで飛び立ってしまう。ロンドンと東京ではなぜこうもスズメのフライトディスタンスが違うのだろうか。

その背景には、スズメの人に対する信頼感の違いが見てとれた。ロンドンでは市民が野鳥を愛護し、スズメは人を信頼していたが、当時の日本では、スズメは害鳥として追い払われながら人家周辺で暮らしていた。