都市に進出したヒヨドリ

ヒヨドリは、「ピーヨ、ピーヨ」と甲高い声で鳴き、全身が灰褐色の地味な色彩である。今日では最も身近な都市鳥として公園や民家の庭木などで繁殖している。ところが、1960~70年ころまでは都心では秋~冬に飛来する冬鳥であり、春になると山地に戻って繁殖していた。

都心でヒヨドリの繁殖が確認されたのは1968年ころであり、1973年には都内のほぼ全域で繁殖するようになった。わずか数年で都市進出を果たしたのである。

しかも、ヒヨドリが繁殖したのは、明治神宮や皇居などの樹木の多い緑地ではなく、人や車の行き交う街路樹や街中の小さな公園、人家の玄関先などの樹木であった。あえて人に接近し人との距離を狭めての都市進出であった。

1986年には、港区南麻布の9階建てマンションの6階のベランダの鉢植えの低木で繁殖した。1995年には、目黒区の東急新玉川線(現田園都市線)池尻大橋駅前の店舗(ケーキ店)の日除けテント内で繁殖した。人工物に営巣したのは筆者の知る限り初めてであり、きわめて稀なことである。

店舗の日除けテント内で営巣したヒヨドリ。ツバメ並に人に接近しての繁殖である(1995年7月6日)(写真・唐沢孝一)