豊富な海産物を食す

2019年6月11日、北海道羅臼町から野付半島を経て根室へと海岸線の道を南下した。

路上からハシボソガラスが舞い上がり何かを落とした。しばらく行くと、また同じように空中から何かを落とす。車を止めて調べてみると、新鮮なアサリが落ちて割れていた。殻を割って中身を食べようとしていたのだ。

カラスが路上に落として割ったアサリ(写真・唐沢孝一)

北方領土(国後島)を間近に見ながら、車はさらに南下し、別海町(べつかいちょう)の床丹(とこたん)海岸付近に差しかかった。2羽のハシボソガラスが空中から貝を落とした。そっと車内から見ていると、割れた貝をくわえて近くの林へと飛び去った。しばらくすると舞い戻り、再び貝を割って林に運ぶ。どうやら子育て中の雛に貝を給餌しているようである。

海岸の堤防の上も下も、大小様々な貝殻が数百mにわたって落ちている。カニ漁から戻った漁師に尋ねると30~40年前から貝を割って食べているという。

割れた貝殻を拾って並べてみた。ホタテガイ、ウバガイ(ホッキガイ)、ムラサキイガイ、ツブガイなどの貝類の他に、バフンウニの殻、クリガニの甲羅や脚などもある。北海道のカラスのグルメな食生活を支えているのは、豊富な海の幸と上空から落として割る調理法であろう。

カラスが割って食べた貝類やカニ、ウニなどの殻(写真・唐沢孝一)

その夜、根室では風露荘に宿泊し、興味深い話を耳にした。風露荘はナチュラリストで文筆家の故高田勝氏が経営し、鳥仲間の常宿として名が知られている。現在は奥様が経営を引き継いでいる。

夕食後、別海町の貝を割るカラスが話題になった。奥様が言うには、「40~50年前、子どもが小さかったころ、カラスが落とした貝を拾ってきて食べた」、「鮮度が高くとても美味しかった」とのことであった。