カラスは「遊び」をする?
カラスは遊びをする動物として注目されている。拙著『カラスはどれほど賢いか』では、「遊びをするということは、パンのみに生きる動物の次元から解放された動物、つまりはヒトの特徴でもある。
ヒトをホモ・ルーデンス(遊戯人)といったのはオランダの文化史家ホイジンガであるが、この定義からすればカラスは遊戯鳥であり、限り無くヒトに近い存在となろう」と記した。
そのうえで、電線や小枝に逆さまにぶら下がる、上昇気流に乗り必死にバランスをとる、滑り台や雪の斜面を滑るなどの行動を紹介した。その後も様々な遊びと思われる行動が観察されている。
ただ、遊びの定義は難しくやっかいである。カラスの遊びの多くは人の子どもの遊びに似ている。子どもはよく遊ぶ。遊びを通して身体能力や仲間とのコミュニケーション能力を高める。そう考えると遊びは有用であり実利として役立っている。
遊びとは、生存上の実利を問わず、「心の満足」に関わる行動であるともいえる。一見して「遊び」のように見える行動も、カラスが「本当に楽しんでいるのか」と問われると悩ましいものがある。
江戸川河川敷でハシボソガラスが上空から小さな赤いボールを落とすのを観察した。地面に落ちたボールを再び上空に運び、繰り返し落とすのを見ていると、いかにも「楽しんでいる」「遊んでいる」ように見える。しかし、「楽しんでいる」「満足している」のかどうか。それを誰がどう判断するのか、それが問題である。
※本稿は、『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)の一部を再編集したものです。
『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)
都市を舞台に繰り広げられるカラスと猛禽類(オオタカやハヤブサ)のバトル、人と共存してきたスズメやツバメの栄枯盛衰、都市進出の著しいイソヒヨドリ――本書は、これら都会に生きる鳥たちの生態を通して、都市とは何か、都会人とは何か、変化する鳥と人との関係などを紹介する。都市環境に適応して生きる鳥たちのしたたかな生態を解説するとともに、巨大都市東京の変貌をひもとく、都市の自然誌でもある。