「その逆を考えたらいいんじゃないか」
スターと木崎の信頼関係は早くから生まれていた。「恋は邪魔もの」だったか、レコーディング中に、木崎がドラムの原田裕臣に「バスドラムを変えて欲しい」と注文をつけて揉めた時、沢田が通りがかりに「キー(木崎)がディレクターだから」と言って問題が解決したこともあった。
「その時に、少しは認めてくれているんだと自信になりました。周囲の人がよく怒られるのは見ていたし、僕も一度怒られたことがあるので凄く緊張してやっていたけど、ジュリーの仕事で後味の悪いことって一切なかった。決断したことはやるし、嫌なことは最初に嫌だと言って、途中で覆すことはありませんでした。男らしいなと、いつも見てました」
一度決めたことは変えない。ジュリーはライブで歌う曲順も変えたがらなくて、木崎にはその姿勢は沢田の信条のように映った。
「ライブのリハーサルをやってから、加瀬さんと『あのパートが盛り上がらないので曲順を変えよう』と提案することがありました。でも、『アレンジを盛り上がるようにすればいいんじゃない?』とジュリーは言いました。大事なことは一度決めたら変えたがらないんです。生き方もそうですよね。歌い方もそう。キャリアを重ねると普通は癖が出てくどくなるのに、沢田研二や桑田佳祐や小田和正は、メロディの歌い方はレコーディングした時と変わりません。
ポール・マッカートニーも、マイケル・ジャクソンもそう。それは聴いてる人を裏切らないからです。ジュリーと仕事をしてから、僕は一度こだわったものを簡単には捨てないでいろいろなものを作ってきたつもりです」
一方で沢田は、物事が行き詰まった時、うまくいかない時には、「その逆を考えたらいいんじゃないか」とよく口にした。木崎にとっても、その後の指針となった。
「『逆も真なり』と言うんです。当時の僕は若くて、その言葉の意味がよくわかってませんでしたが、経験を積んで物事の本質を言い得てる言葉だと思うようになりました。詞のワンフレーズを反対の言葉にすると引き締まる。メロディやコンセプトもサウンドも、すべてそうです。制作の過程で行き詰まった時、この考えで何度も救われました」