日本工芸会陶芸部会50周年記念展にてキービジュアルに採用された渋谷さんらしい作品(撮影:延秀隆)
山口県萩市にて窯業を営む御台場窯三代目当主・渋谷英一氏。
祖父から受け継いだ技術を今の感性で磨き上げ、前例のないモダンな萩焼を生み出し続けています。
独立一年目には萩市美術展に入選し、2018年に行われた第5回陶美展では最高賞(日本陶芸美術協会賞)受賞。
2022年に行われた日本工芸会陶芸部会50周年記念展では作品がキービジュアル等に採用されるなど短期間で目覚ましい活躍を続ける渋谷氏の秘密に迫りました。

――まずは渋谷さんの歴史を教えいただけますか。

渋谷 祖父が陶工をしていまして、その環境下で育ちました。
初めは僕も後を継ぐとは思ってなくて、一時期学校卒業して県外に出てたんです。いろいろ紆余曲折あって25歳ぐらいの時に萩市へ帰ってきたものの、すぐに仕事もなかったので祖父の仕事をバイト感覚で手伝い始めました。従業員5人くらいの小さな窯ではあったのですが、下積みと言いますか、修行して技術を習得していったのが最初です。

30歳になり、「自分の望むものを創っていきたいから自由に創作をさせてほしい」と祖父に頼み、作品作りに没頭する環境が整い始めました。窯など貸りていたので、厳密に言えば独立ではなかったのかもしれませんが、作家としてのスタートはこんな経緯です。

もともと陶芸家になるつもりではなかったです。楽しい仕事だろうなって祖父の背中見て思ってはいたのですが、「やりたいやりたい」といった感情はなかった。でも実際やってみたらやっぱりとてもいい仕事だなと思いまして。

――25歳に地元に戻るまではどんなお仕事をしていましたか?また、一度地元から出たことが良かったと思われてますか?

渋谷 一度萩から出たいという気持ちがありまして、様々な職を体験しました(笑)。美術や焼物の仕事に関わるものをしてはいたものの、実務としては全然違う世界にいましたね。祖父が継いでほしいと思っているのは薄々わかっていましたが、「いつか帰ってきて後継ぎなさいよ」といった明確な言葉はなく、出るときにとりあえず好きなだけ遊んで来いと送り出されまして。