大学の経営陣にとってのジレンマ
IMD(国際経営開発研究所)が発表する「世界競争力ランキング」によると、日本の国際競争力は1992年の時点で世界1位でしたが、2022年では34位と低迷しています。
IMDは教育分野への投資、高度人材の誘致、国内における高度人材の育成という3つの項目から各国の競争力を比較した「世界タレント(高度人材)ランキング」も発表しておりますが、こちらも22年は41位でした。高度なスキルを持った人材にとって、あまり働きたいとは思えない国だという評価です。
3項目すべてで振るわない結果なのですが、特に低評価なのが「国内における高度人材の育成」。具体的な評価項目を見ると、国際経験の有無は63か国中63位と最下位で、大学教育のレベルも59位です。
各種の世界大学ランキングでも、東京大学をはじめ日本の大学の評価は低下する一方。ほかさまざまな指標も、学びや就労環境に関する日本の国際競争力低下を示しています。残念なことですが、優秀な留学生からすれば、他の国ではなくあえて日本を選ぶ理由は以前ほど多くないのではないでしょうか。
世界各国から留学生を獲得するためには、世界的な認証を受けた高品質な学位プログラムや、安価で安心な学生寮なども求められます。実際、日本の大学でも海外大学と連携したダブルディグリープログラムや、学生寮の整備などが一部で進んでいます。
その一方、郊外の広大なキャンパスを廃止し、都心の高層ビルに移転する例が少なくありません。日本の18歳学生を集める上では、都心の繁華街にあるキャンパスのほうが支持されるからです。
ですが都心で十分な人数を受け入れられる学生寮を整備するのは容易ではありません。長期的に見れば都心に通える学生もいずれ減少していきますし、同じ沿線などにライバル大学が移転してくれば当初の目論みは崩れます。大学の経営陣にとって悩ましいジレンマでしょう。
※本稿は、『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(著:倉部史記・若林杏樹/中央公論新社)
大学職員は「年収一千万円以上で仕事も楽勝」と噂の人気職だが、はたして真相は?
大企業と似たような仕事内容がある一方、オーナー一族のワンマン経営で、ブラック職場の例もある。国公私立でもまた事情は千差万別。それでも大学職員になりたい人、続けていきたい人、辞めようかどうか迷っている職員のための必読書。