「個人ブログ」や「SNS」を過度に信用するのは危険
「年収が高い大学ランキング」のようなものを独自に作成し、公開しているブログもあります。俸給表に基づき作成したなどと書いてあると一見、信頼性がありそうです。しかしその俸給表の出所が示されていなかったり、すべての大学に対して一律に「基本給×16カ月」という計算を当てはめていたりといったケースもあります。
明らかに古いデータで、現在の実態はもっと低いにもかかわらず、「大学職員の待遇は良い」という言説を強化するためにあえて古いデータを引用しているのではと思われる、悪質なものもありました。
すべて嘘だとまでは言いませんが、こうした個人ブログやSNSでは数字が「盛られる」傾向が目立ちます。過度に信用するのはやはり少々危険です。
大学にだって降格はありますし、定年まで管理職にならない方もいます。「有力私大の職員なら、誰でも40代で年収1000万超え!」を現状に合わせて正確に記載するなら、「経営基盤が盤石であり、今後も社会の変化に対応して経営努力を怠らず、かつ教職員の待遇維持にも熱心な学校法人。
そこで健全な危機感を抱きながらキャリアアップの努力を重ね、民間企業等からの中途採用者に負けない評価を得て管理職のポストにつき、急に法人の経営方針が激変しても上手に対応し、一定の評価を受け続けていれば年収1000万超え」くらいでしょうか。
もしくは幸運の星のもとに生まれているかです。もっとも、これだけ優秀な方であれば今の職場に固執する必要もなく、他の法人でも問題なく活躍できるのではないでしょうか。
日本同様に大学職員が人気を集めていた韓国では、状況が変わってきているそうです。
一時は「神の職場」とまで呼ばれていた韓国の大学職員だが、今ではそうでもなくなっている。10年前の時点では、初任の年俸で大企業に劣らぬ給与水準を有し、私学年金で安定的な老後まで保障されているとあって、羨望の対象だった。ところが経営困難になる大学の増加で、教職員もまた同じように困難な立場に置かれているのだ。(「韓国で『神の職場』から『ただの職場』に転落した大学職員」『朝鮮日報』2023年1月22日付 https://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2023011980183)
記事によると、ここ20年ほど企業は給与水準を上げ続けているのに対し、多くの大学では賃金がほとんど変わらず、そのため相対的に待遇面での優位性が失われてきたとのこと。
一方で経営状況の厳しい各大学は職員の人数を減らしてきたため、仕事のきつさは増大しているそうです。
「教授にお仕えする」という職員の文化に不満を抱く若い職員たちも多いそうで、2021年には大学職員総数の1割程度が離職。その7割ほどは、在職期間5年未満の職員だったとのことです。
環境も違いますし、日本も同じ状況になるとまでは言えませんが、参考にはなります。
ここ数年、日本ではあらゆる産業で給与が足踏み状態でした。そのため大学職員の給与水準は高く見えます。ですが今後、日本経済が上向きになって他業種の給与水準が上がり始めれば、優秀な層からの支持を失っていく可能性はあるでしょう。
業務は間違いなく今より大変になっていきますが、待遇が今以上に良くなる見込みはあまりないのですし。「大学職員なのだから給与は高いだろう」と職場に期待するのではなく、「大変な業界だけど、私はがんばろう」くらいのスタンスが良いように思います。
確かに、世間並み以上の待遇の学校法人も少なくはありませんが、くれぐれも期待を過度に煽るような、煽動的な情報にはお気をつけください。
※本稿は、『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(著:倉部史記・若林杏樹/中央公論新社)
大学職員は「年収一千万円以上で仕事も楽勝」と噂の人気職だが、はたして真相は?
大企業と似たような仕事内容がある一方、オーナー一族のワンマン経営で、ブラック職場の例もある。国公私立でもまた事情は千差万別。それでも大学職員になりたい人、続けていきたい人、辞めようかどうか迷っている職員のための必読書。