二度目の大学入試で不合格になった直後、再び母の“呪縛”からの脱出を試みたあかりでしたが――。(写真提供:Photo AC)
ある殺人事件を追った記者が、面会や往復書簡を交わしたのちに著したノンフィクション、『母という呪縛 娘という牢獄』が話題になっています。事件は2018年、滋賀県守山市にて発生。発見された両手、両足、頭部のない、体幹部だけの遺体に対し、死体損壊、死体遺棄などの容疑で逮捕されたのは、なんと殺された女性の「娘」。娘のあかり(31歳)は母・妙子(58歳、仮名)に国立大医学部への進学を強いられ、9年にわたって浪人生活を強制されるといった異様な親子関係を築いていたそう。一度目に続き、二度目の大学入試直後にも、あかりは母の“呪縛”からの脱出を試みましたが――。

二度目の受験と二度目の家出の失敗

二〇〇六年、二度目の受験はやはり結実しなかったが、あかりの脳裏にあったのは、受験に成功して医学部に行くことより、「母からの自立」のほうだった。そのために、二〇歳の誕生日が来るのを心待ちにしていたのだ。

この年六月、あかりは再び家出を計画した。

一八歳のときの家出では、就職の面接まで受けたものの、先方の社長から問い合わせを受けた母に止められ、家に連れ戻された。二〇歳を超えれば、自分の意思で家を出て、自分の意思で働くことができるのではないかと思ったのだ。

あかりが頼ったのは、やはり高校の国語教師だった。二〇歳の誕生日を迎える直前、あかりは身の回りの衣類などを段ボール二箱に詰め、「とりあえずこれを預かっておいてください」という手紙をつけて男性教師の自宅に宅配便で送った。石川県・金沢の会社に履歴書を出し、そこで働いて寮に住み込む計画だった。

直後、教師のもとにあかりの母から激しい電話がかかってきたという。

「あの子の日記を見たら、家出をしようとしていることが分かったんです。先生のところに荷物がいっているでしょう。それを送り返してください。あの子は、私の言うことなんてなにも聞かないんです。あの子が横に寝ているのを見ながら、何度この子を殺して自分も自殺しようと思ったか分かりません! 先生、今後いっさい、私どもには関わらないでおいてください」

結局、あかり自身が姿を見せることはなかった。母は私立探偵を雇ってあかりに尾行をつけ、先生の家に行く前に、連れ戻したのだ。

二〇歳になれば、二〇歳になれば――高校卒業以来、ずっとそう思いつづけ、そのときが来るのを待っていたが、二〇歳になっても、自立は叶わなかった。
  
20歳になって、親の許可がなくても就職できるのでは、と再び家出をした。母は探偵を使って私を捜し出した。面接を受けた会社の内定は取り消され、連れ戻された。