血文字の反省文
いつごろのことかはっきりした記憶は残っていないが、母から血文字の反省文を書くよう強要されたこともあった。
「ちゃんと勉強して、合格しますと書きなさい!」
指先に縫い針を刺して血の珠を出し、自分の血で言われた文字を書こうとするが、痛さと怖さで針を深く刺すことができず、文字を書くのに十分な血を出すことができなかった。
「もういい。根性なしめが」
母がそう言って、「血文字の反省文」はようやく免除されたが、そのときの母の蔑むような目をあかりはいまも忘れることができない。
成人後もあかりはほとんど酒を口にすることはなかったが、あるときバイト先の食事会で軽く飲んで帰ると、母の猛烈な怒りを招いた。
「臭い! この酒飲みが! 家に入るな!」
その日は結局、家に入れてもらえず、庭で夜を明かすことになった。
母は、酒が大嫌いだった。叔母夫妻のもとで育てられた一〇代のころに、酒に酔った叔父と叔母が毎晩のように口論するのを聞かされ、酒の匂いさえ受け付けなくなった。父も母に気を遣って、同居しているときもほとんど酒は飲まなかった。あかりが酒の匂いをさせて帰ってきたのに気づいた母は、怒りを爆発させた。
この一件以降、あかりは飲み会に参加してもけっして酒を口にしなくなった。