小振りの穂先にもかかわらずスケールを生み出している。まさに熟練の技
「令」の右払いの抑揚、最終画のハネと誤解されるが実はトメの技法、「和」の横画の起筆が印象的と木下さん

 

 

手書きの文字の魅力とは?

木下 現在、「日本の書道文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されることを目指した動きもあります。そのなかで「書き初め」に目が向けられています。

茂住 もともと書き初めは平安時代の宮中行事でした。僕も毎年、職場のみんなと一緒に書き初めをしています。新年に若水を汲んで、墨をすって。心清らかに、自分なりの思いを筆で書くという風習が、今日に至るまで日本に残っているのは、素晴らしいことですね。

木下 書道の魅力は、書く、観るという行為を通して、「古の心」を追体験することにあると思います。それは例えば、奈良や京都の古寺、古社を拝観して楽しむ感覚に似ていますよね。文字や書から、古の人たちの息遣いや美意識を感じることができるのです。ただ、近頃は文字に接する機会もパソコンやスマホばかりで、文字が単なる記号として認識されているような気がします……。

茂住 手で書いた文字には自分の想い、念がこもるのです。手紙を書く場合でも、自分の気持ちが手を通して相手に伝わる。「気が入る」ということがあって、それはパソコンやスマホなどで文字を打ったところで、到底及ばないことです。

木下 そもそも漢字という文字は、今から3000年以上前に物の形を象って造られたことに始まり、千万無量の先人たちによって、長い歳月をかけて少しずつ今の形、書体になりました。その尊さに心を寄せれば、文字や書の見方も変わります。