茂住 漢字はアルファベットのAとは違うのです。英語などと比べて、漢字を使った言語は字数を必要としない、と言われています。それは、漢字には一文字一文字に形・音・意味・感情などさまざまな情報が入って成り立っているからです。平仮名も漢字からできていますが、そのように優れた文字であるということを、きちんと勉強して書いてもらったら、文字もものすごく喜びます。ただ、なかにはいい加減な扱いで書いている作家もいて、自分で勝手に文字をデフォルメしてひどい形にする。そんなことをしていたら、絶対に文字は泣いています。
木下 「令和」は公文書ですから、正式な公式書体である楷書で書かれました。ただ、楷書は小中学校で習う、みんなが見慣れている書体でもあります。これを先ほど、普通に書いて、とおっしゃいましたが、普通ではない「品格」が漂っているところに、真のすごさがあって。最近は「伝統」に「革新」という言葉がセットで使われたりもしていますが、書の世界では主張の強さが目立つ、自制のきいていない作品が見受けられます。
茂住 個人の感情を書に押しつけても、美になりません。美というのは、人それぞれに価値観は違いますけど、やはり大半の人が美しいなと感じるものなのだろうと思います。
木下 それが、「普遍性」につながっているということですね。実際、新元号の書は後世に残されていきます。
茂住 みなさんに伝えるだけなら、活字でもいいわけです。それをあえて筆で書いた「令和」を掲げたことで、筆で書く文字の良さをみなさんが感じ取ってくださったと聞いています。僕はそれが大変嬉しいです。
聞き手:木下真理子