雪の下からヒグマが飛び出してきた

山菜採りの時期やクマの活動時期だけ、クマに遭遇しないように気を付ければいいというわけではない。冬眠中のクマも非常に危険だ。

それを証明するかのような事例が、1976(昭和51)年12月2日、北海道下川町で起こった事故だ。

営林署作業員のA(54歳)は、足下に越冬穴があることに気づかず除伐作業を行っていたところ、ヒグマが雪の下から飛び出してきた。

Aは手持ちの刃渡り28cmの鉈鎌で反撃したが、致命傷を負い死亡した。事故後の検証によると、ヒグマは母グマで、巣穴には10カ月の子グマが2頭、潜んでいたという。そのため、この攻撃は子グマを守るための排除行動だったことが窺える。

子グマを連れた母グマは、防衛行動から通常でも攻撃的になる場合が多いといわれる。また、近年は、クマなどの野生動物の棲息域が拡大している。

目撃しても、決してむやみに近づかないように気を付けてほしい。

雪山で見つけた熊の足跡(写真提供:Photo AC)

※本稿は、『日本クマ事件簿』(著・刊:三才ブックス)の一部を再編集したものです。


日本クマ事件簿』(著・刊:三才ブックス)

昨今、ニュースでも話題に上ることの多い、クマによる獣害事件。絶対的対処法のない巨大生物に、人はどう付き合うべきなのか。本書は、明治から令和にかけて、人がクマに襲われて亡くなった事件のうち、記録が残るものはほぼ全て収録。当時の報道や、関係者の証言から浮かび上がる衝撃の現実。熊撃ち猟師の経験談、専門家の研究成果も参考に、「森の王者」クマの実態に迫ります。