「審判はゲームの流れをコントロールし、最終的には審判の判定などまるで目立たないまま、お客さんは感動と興奮を胸に帰路につく。そんな試合が理想です」

サッカーの魅力を最大限に引き出す仕事

――女子1級審判員として活動し始めてから10年近くが経過しました。孤独に続けるトレーニングがつらいなぁと感じることはありますが(笑)、審判を辞めたいと思ったことはありません。むしろ、すてきな仕事だなという思いが、試合に出るごとに強くなっていく感じです。

今回、W杯を肌で体感して、サッカーとは実に人の感情を根っこから揺るがし、国籍も人種も超えて世界中の人たちを魅了するスポーツなんだ、とあらためて確信しました。そんな試合の真ん中で笛を吹く審判という仕事は、サッカーの魅力を最大限に引き出すことを目指しています。

試合が《荒れ》てカードが乱舞しても、ジャッジのたびに試合がブチブチと途切れてもいけません。審判はゲームの流れをコントロールし、最終的には審判の判定などまるで目立たないまま、お客さんは感動と興奮を胸に帰路につく。そんな試合が理想です。そういうレフェリングができる人であれば、男でも女でも関係ないと思います。

そうそう、今大会ではボールにチップを埋めて正確な位置を瞬時に見極める、高度なテクノロジーも話題になりましたよね。基本的にはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の正確さとすばやさがサッカーをより面白くしていて、素晴らしいと思います。

IT技術がどんどん進化して、AIが判定すれば審判はいらないんじゃないか、という話も聞こえてきます。でも私たちは試合を進める選手たちの間近で、たとえばある選手が今にもファールしそうな瀬戸際にいる、と察知できるわけです。

「気をつけてください!(ちゃんと見ていますよ)」とひと声かけることで、もしかしたら試合をなめらかに進行できるかもしれない。VARがあろうがなかろうが、審判のやるべきことは今後も変わらないでしょう。