樋口「義理堅い人への敬意は年々強くなってますね」

上野 そういうなかでわたしが感心したのが、社会学者の鶴見和子さん(社会学者/1918~2006年)です。わたし、彼女とは仲がよくて、世間知らずのお嬢オバサンだからって、ずっと「オジョンバ」って呼んでたの(笑)。彼女は彼女でわたしのことを「チンピラ」って呼んでました。エラそうになるなという戒めのコトバとして、いただいています。

オジョンバは寝たきりのお父さま(政治家の鶴見祐輔)を看取るまでの14年間介護されていたのね。あるとき食事をご一緒する約束をしていたレストランにオジョンバがちょっと遅れて、息せき切って入って来られたことがあって。

『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』(著:上野千鶴子・樋口恵子/マガジンハウス)

聞くと、亡くなったお父さまの知りあいだった方のお葬式に行ってきたとおっしゃるの。「今日でようやく義理を全部果たしました」って。つまり、亡くなったお父さまのご友人だった方たちのご葬儀に、お父さまが亡くなったあと、全部行っておられたんです。

わたしはその話を聞いて本当に感じ入って、この人を二度とオジョンバと呼ぶまいと誓いました。わたし自身はまったく義理堅くないんですが、義理堅い方に対する尊敬の念はものすごくあります。

樋口 私もそうです。体力もヘロヘロだから義理堅くなんてとてもできないけれど、それをちゃんとやる人を笑ったりは絶対にしない。特に、自分が死に目に近づいているせいか、義理堅い人への敬意は年々強くなってますね。