「できない」自分に社会は意外と優しかった(写真はイメージ/写真提供:photo AC)
都会生まれ、都会育ちの35歳。仕事も軌道に乗っている。今の時代、この社会で子を産むなんて現実的ではない。そう信じてきた作家の小野美由紀さんに、突然湧いてきた「子どもを持ちたい」という欲望。妊活を経て妊娠し、つわり、出生前診断、夫婦の危機と数々の問題と向き合う中、妊娠7か月を迎えます。体型は限りなく丸くなり、仕事も、家事も、買い物も、今まで当たり前にやっていたことが何もかもできなくなり。自分は「准弱者」なのだと自覚し、まわりを見ると――。

「できない自分」を受け入れる

「准弱者」である自分を許そう。

子ができたことで、ゆっくり、じわじわと氷解するように、私は「できる自分」から降りることになった。「できない」自分に社会は意外と優しかった。

街で助けてくれるのは年配の女性が多かったが、若者が席を譲ってくれたり、時には車内で「妊婦さんがいるので席を譲ってくれませんか」と呼びかけて、席を作ってくれる人もいた。そのたびに「ここにいること」を許された気がした。

自分から他人に図太く助けを求めることにも少しずつ慣れた。電車の中で「すみませんが、体調が悪くなければ譲っていただけないでしょうか」と声をかけられるようになった。(※)

声をかけた相手はたいてい「気づいていませんでした」と言って、快く席を譲ってくれた。勝手に拗ねる前に、こうして声をかければよかった。

※【夫】:実際に妻はよく声をかけていました。すると、ほとんどの人が助けてくださいました。誰でも気軽に助けを求められる世の中になって欲しいです。

仕事のうえでも、少しずつ「できない自分」を認めていった。無理のないスケジュールを組み、不調でコンディションが揺れ動くのを受け入れ、周囲への理解を仰いだ。妊娠したばかりの頃はそれで「干される」ことが怖かった。意外にもクライアントは寛大に待っていてくれた。自分で言い出しておきながら、そのことに驚いた。

コロナ禍であらゆることが思ったとおりに「回らない」のが社会的に常態化していたことも幸いしたのかもしれない。