家族の「引退」
次男の中学野球チームには、高校最後の試合を終えて引退したOBたちが、このところよくグランドに挨拶に訪れている。
中学野球少年たちにとっては、憧れの高校野球に進んで活躍した、チラチラと金粉を振り撒いて歩いているような、まさにスターな存在。真っ黒に日焼けした顔から白い歯をのぞかせて、照れながら後輩たちへ言葉を送る先輩の、まぁぁあああ爽やかなこと!
一つ野球に区切りをつけてホッとしたような笑顔で挨拶に来られる姿が印象的だった。
こうして野球の中で生活していると、何度か訪れる家族の「引退」というものを見守ることがある。チームの最終学年の最終戦を終えると「引退」ということになるので、今は2人の息子たちにも使う言葉だ。本当に野球を辞めるわけではないのでそんな大そうな意味はないのだが、やはりチームを離れる寂しさや名残惜しさを感じながら去る立場。切ない思い出は一つ一つ増えていく。
我が家にとって最初の「引退」は、夫のプロ野球引退だった。まだ子どもが生まれる前、結婚5年目の時である。
この話をするとみんなウッ、と言葉に詰まってしまうので気を遣わせるつもりはないのだが…。
夫が戦力外通告を受けたとき私は妊娠5ヵ月目で、第一子を迎えるために自宅を新築する準備まで進めていた。うっ。今思えば相当大ピンチなのだが、そこは私のお腹にすでに「命」がすくすくと育っていたおかげかもしれない。心配や不安でいっぱいというより「この命を守らねば」という母性が上回っていたのか、悪阻明けで調子づいた食欲のままよく食べ、よく寝て、私自身はとてもハツラツとしていた。