「最近は、肩の力を抜いて芝居をしてもいいんだ、と思えるようになってきて。決して驕っているつもりはなく、少し自信がついてきたのかもしれません」(撮影:宅間國博)
〈8月12日発売の『婦人公論』9月号から記事を先出し!〉
見る人の心に残るキャラクターを数多く演じてきた松下洸平さん。多彩な表現力は、どのようにして培われたのだろうか。カギは、松下さんの《原点》にあった(撮影=宅間國博 構成=内山靖子)

重要なのは「慣れた瞬間」

3年前、連続テレビ小説『スカーレット』の放送が終わってしばらくしてから、『婦人公論』にインタビューしていただきました。仕事への向き合い方は、基本的にはその頃から何も変わっていません。

ただ、以前の僕は「いつどんなチャンスが待っているかわからない」と、ガチガチに武装していたような気がします。ドラマに呼んでいただくこともあまり多くなかったので、いただいたワンシーンのセリフ一言に、「見てください!」と言わんばかりの思いを全力で込めていたんです。

それが最近は、肩の力を抜いて芝居をしてもいいんだ、と思えるようになってきて。決して驕っているつもりはなく、少し自信がついてきたのかもしれません。

ありがたいことに、この3年でいろいろな映像作品に出演させていただきました。でも、僕にとっては舞台が原点であり「ホーム」という気持ちです。単純に俳優としてのスタート地点でもありますし、そこから今に至るまで、舞台で芝居を学ばせていただきました。

舞台は映像作品と違い、1ヵ月も2ヵ月も同じセリフを言い続けます。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、実は毎日繰り返しているうちに、途中で「飽きた!?」という瞬間がなくはないんです(笑)。そして幕が開いて10日ほどすると、舞台に立ってもあまり緊張しなくなってくる。

でも、その「慣れた瞬間」こそが重要で。そこで「あのセリフにちゃんと気持ち、入ってる?」と、自分に問いかけてみたり、台本を読み直してみると、「そうだ、この気持ちを忘れていたな」と気づけたりします。

芝居に正解はありませんが、できるだけベストに近づきたいからこそ、同じセリフでも毎回気を引き締めて臨みたい。俳優にとって、「緊張感を保つこと」が何より大切なのだということを、舞台の仕事は教えてくれます。