節目節目で人生の舵を切ってくれるのは
そんな松下さんが今回出演するのは、こまつ座の舞台『闇に咲く花』だ。終戦2年後の東京・神田。ある夏の日、戦死したはずの健太郎が家族のもとに帰ってくるが、その喜びもつかの間、背後に巨大な影がしのび寄る。「庶民の戦争責任」について問いかける井上ひさしさんの戯曲に、松下さんはどんな思いで挑んでいるのだろう。
――僕が演じる健太郎は野球が大好きな優しい青年で、C級戦犯の容疑をかけられるという悲惨な運命を背負っています。ただ、この作品は悲しいことがあっても日々の中に幸せを見つけ、それを守り温めながら笑い合う町の人たちの姿が印象的で。井上さんが描きたかったのは、国や世の中に対する怒りより、むしろそちらのような気がしているんです。
僕は10年以上、井上さんの戯曲を客席から見てきましたが、実際に挑戦するのは今回が初めて。台本を読んで、井上さんは一貫して庶民の声を代表して届けてきた人であり、健太郎の一言一言にその思いが詰まっていると感じました。とにかく責任重大です。
僕自身、当時と今では時代が違うとはいえ、日常の些細な幸せの大切さについて、あらためて考えました。俳優は日常も華やかだと思われがちですが、僕はすごく普通の人間。冷蔵庫が空っぽになればスーパーに買い物に行くし、洗濯ものが溜まればちょっぴり憂鬱な気分になる(笑)。
でも、そんな毎日のなかで、「ああ、今日は夕日がきれいだな」と感じたり、現場でスタッフさんたちが楽しそうに話す姿を見てホッとしたり。そういう小さな幸せをキャッチして嚙みしめることが、自分にとってはすごく大切なんだと、最近思うようになりました。