「正義中毒」

多様な倫理が存在するこの世界において、正義という信念は場合によっては狂気を帯びる。

いまから8年前、シリアのパルミラ遺跡で82歳の考古学者がIS(イスラム国)に惨殺される事件があったが、彼らにとって考古学を含む学問は、自分たちの宗教の信念を揺さぶる悪い影響力を持つものであり、学問を生業にしている人物を殺害することは、神への忠誠を示す純粋な正義行動なのである。

コロナ下で「正義中毒」という言葉が生まれた。ワクチンの接種などコロナへの対策としてその都度あげられるルールに従わない人だけではなく、その中で生まれる同調圧力的空気に乗れない人がジャッジを受け、中にはコロナに感染してしまっただけで周りに迷惑がかかるからと自殺を選んだ人もいた。

一部宗教の過激派のかざす正義には、宗教的倫理が大きく関与しているが、彼らの正義と違い、日本のような宗教と結びつきのない国における正義は、従うべき倫理に根づいていない。だから扱いが難しい。