怒りを思う存分放出できればどんなに楽か

人間は正義意識にとらわれると、脳からドーパミンという快楽物質が分泌されるらしい。そしてこのドーパミンの快楽にはまってしまった人は、そこからなかなか抜け出せなくなって、常に正義意識を稼働させるためのターゲットを探すようになるそうだ。

私もときに正義中毒症状が出てしまい、怒りを宥めるのに苦しむこともある。怒りを思う存分放出できればどんなに楽かという気持ちになるが、つまり、あの感覚がドーパミンの誘いなのかもしれない。

この地球上でもっとも支配欲の強い生き物と言われる人間だが、正義意識はその支配欲にそっくり便乗した。正義を振りかざすことが、社会の不調和を招くことに気づいたの人々は、「寛容」という、ドーパミン抑制の理念を生み出したのかもしれない。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!