冷静に考えると怖い
信じてもらえるかわからないが、今回のことを私は根に持っていない。どちらかと言えば、よかった! と安堵した。なぜなら近頃は、私が認知している人間の数に、私のことを認知している人間の数が迫りつつあるからだ。まだまだ差は開いているが、数年前より距離は縮まっている。
よく考えてみてほしい。たいていの人間にとって、自分が認知している人間の数は、自分のことを認知している人間より100倍以上多いはずなのだ。平たく言うと、有名タレント、つまり自分が存在を認識している人間は私の存在を知らない。これがバランスの取れたヘルシーな状態だ。
知らない人が自分の存在を知っている。冷静に考えると怖いではないか。これを「怖い」と思わず「嬉しい」と感じられる人が、表舞台に立つに相応しい人物だ。私はどうしてもそうは思えない。
「じゃあ、テレビなんざ出るんじゃないわよ」と、鏡に指をさす。「でも、たくさんの人に新刊を読んでほしかったし、なにより苦手なことにトライしてみたかったのよ」と、鏡の中の私が答える。