「知らない人はずっと知らない」に憧れて

テレビ出演後、デビューしてから10年のあいだに上梓した書籍のほとんどに重版がかかった。ポッドキャストのリスナー数はうなぎのぼりだ。地上波、すげえ。

今年の6月は忙(せわ)しなかった。身に余る幸運と厚遇が押し寄せたかと思えば、まったく別の場面で鳩尾(みぞおち)を抉(えぐ)られるようなことが立て続けに起こり、何度も心を引きずり下ろされそうになった。「人生で良いことと悪いことの数は同じ」論には常に反旗を翻し続けてきたが、ふと旗を降ろしたくなった。すべての喜ばしい思い出が苦々しい記憶と紐づいている。それでもへこたれない私は、本当にえらい子であります。

私は「知る人ぞ知る」ではなく、「知らない人はずっと知らない」に憧れている。後者は一定量“透明人間”になれることに重きを置いており、私にとってはそれがなによりの健康の秘訣なのだ。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇