ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「冷蔵庫の片づけ」について。復縁した彼から「冷蔵庫の中をきれいにしておいたよ」と得意げに言われ、スーさんは絶句したそうでーー。(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)

「冷蔵庫の中をきれいにしておいたよ」

久々に怒髪天を衝いた。付き合い始めて日の浅いパートナーが、我が家の冷蔵庫をぜんぶ勝手に片づけたからだ。

我々はどちらもいい年をした中年だ。人生の中間地点は折り返し済み。ここからは穏やかに寄り添っていくのが順当だろう。にもかかわらず、付き合いたての若者カップルが起こす揉めごとランキング第3位みたいなことをやるとは思いもよらなかった。

その晩は焼き鳥屋さんにいた。美味しいのが食べたいと言うから、とっておきの店に連れていった。ささみはスッキリと身が締まっていたし、つくねには軟骨が混ざっていて歯ごたえも味わいも抜群だった。太ももの付け根の肉は、噛めばプチッと音がするほどジューシー。ハツは新鮮で肉汁の味が濃い。すべてがバッチリだ。私はリスのように頬を膨らませニコニコしていた。

おまかせ串7本が後半に入ったあたりで、「冷蔵庫の中をきれいにしておいたよ」と彼が得意げに言った。私は絶句した。そんな越権行為を平気でやる人だとは知らなかったから。