私はあわてて扉を閉めた

問い詰めると、賞味期限切れはすべて捨てたという。「賞味期限なんて関係ないよね」と、ついこのあいだ笑って話していたのに、なんという裏切り。ということは、柚子胡椒や七味唐辛子までやられたか。眉間に皺を寄せたブルドッグのような私に、「食べかけばかりだったし、一番古いのは2017年モノだった」と向こうは抵抗を試みる。2017年からの食べかけを発掘したような言い方をしないでくれ。それはたぶん賞味期限を大幅に超えたあたりから、念のため冷蔵庫に入れておいた缶詰か何かだ。捨ててよかったのは、残り半分以下で固まりつつあった生クリームとしなびたリンゴくらい。だいたい、どれだけ食べかけでも、古くても、私の自由だよ。

恐る恐る尋ねてみれば、やはり興が乗って引き出しやら棚やらの食品も賞味期限切れはすべて捨てたという。ある種の泥棒だ!

実は若い頃、私は誰かにこれをやったことがある。あの時は、なぜ苦笑いされたかわからなかった。今ならわかる。相手の領域に踏み込み勝手に価値を決め、未確認のまま取捨選択するのは、相手の尊厳を踏みにじる蛮行なのだ。

私の怒りにたじろぎはしたが、ここまで感情を露わにしても動じない相手に感謝もした。帰宅して冷蔵庫や戸棚を開けると、そこには私には作れない秩序があった。捨てられたくなかったものを思い出さないうちにと、私はあわてて扉を閉めた。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇