(イラスト:大野博美)
文部科学省による令和元年の特別支援教育に関する調査によると、全国の小・中・高校で通級による指導を受けている人数は134,185人。前年度より11,090人増加しており、平成5年の12,259人から10倍以上と、年々増加しています。
50年程前、まだ発達障害というものが知られておらず、周囲の理解も得づらかった時代。小橋さとみさん(仮名・大阪府・主婦・75歳)は、次男が言葉が遅くて、落ち着きがなく、多動ぎみなのは性分だと思っていました。障害と向き合い、人々に助けられながら生き方を模索してきたさとみさん親子は――。

前編よりつづく

2人で喫茶店をやりたいという夢をかなえるため

ある日、ドキュメンタリー番組で、3教科の試験だけで入学できてクラスの約半数が障害のある生徒、というユニークな高校が紹介されていました。和夫は小さいときから絵を描くのが好きで、美術のほかに国語と算数の計算くらいは少しわかります。

同じ中学の友だちと受験して合格し、乗り換えを3回もしなくてはいけない遠い道のりでしたが2人とも最後まで通いました。

和夫が高校に通う間、私は卒業後の進路について考えるようになります。外に働きに出しても、失敗して萎縮するかもしれません。それに、わが子が社会性を身につけることを他人に委ねるのは図々しく無責任だと感じたのです。そこで夫に相談し、夢だった喫茶店を開くことを決めました。

まず私は自動車の免許を取得し、梅田にあった喫茶店の専門学校に1年半ほど通学。実務経験も必要と思い、地元のお店で働かせてもらいました。夫も開店資金を工面したり、お店の場所を探したりと協力してくれたのです。

そして高校卒業に合わせて、今までの担任の先生方に4月開店の案内を送りました。すると1ヵ月の間に小、中、高の担任の先生全員が「和ちゃん」の様子を見に来店してくださったのです。小学校の先生は「おー、和ちゃん、エプロン結べてる」、中学校の先生は「上手にお鍋も洗っているのね」と、和夫の成長を褒めてくださいました。