それでも心機一転、仕事を見つけ、新たな人生を歩み始めていたのだが、「もう二度と会いたくない」と思っていた元夫の再婚相手と遭遇してしまったのだ。それは3年前、知人の葬儀でのことだった。すべて水に流したつもりでも、数年ぶりに再会した彼女の顔を見た途端、苦悩した日々の記憶が事細かに蘇ってきたという。
「それだけに、葬儀場で再会したあと、彼女から本気で弱り果てているという電話があったとき、思わず面白がってしまったんです」
佐々木さんは「夫を奪っておきながら、いったい何のつもりだろう」と、最初は訝しく感じていた。だが、彼女が涙ながらに「離婚を考えている」と打ち明けるのを聞いて、つい根掘り葉掘り訊いてしまったのだと苦笑する。
「なんでも子どもの親権が欲しいのだけれど、現状では自分の分が悪いと。最終的には『綾香さんなら、彼が女にだらしのないDV男だと知っていますよね? 証言してもらえませんか?』なんて縋られてしまい、困惑しました。私には彼から暴力を受けた覚えはないし、さすがに突っぱねましたけど」
没交渉になっている元夫に連絡する気にもなれず、ここまでと断ち切ったつもりだったのだが、事態は予期せぬ方向へ。その後、3ヵ月にわたって、昼夜を問わず、彼女は「夫の浮気相手に尾行されている」「夫に殴られて歯が折れた」「死にたい」「話だけでも聞いてほしい」と執拗に連絡をしてくるようになったのだ。翻弄され、ほとほと疲れ果てたという佐々木さん。そのうち、着信があるだけで嫌な気分に襲われるようになった。
「ところがある日、ピタッと止んだんです。最近になって風の便りに、彼女が統合失調症で入院したことを知りました。なんだかホラーみたいなオチでしょう?」
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離婚や死別という経験をしたうえで、今度こそ幸せになりたいと再婚を決断する人には、家族といえども口を挟みにくいもの。といって、問題が生じたときに影響を受けるのは、その家族なのだ。
再婚が吉と出るか凶と出るかわからないが、せめて何が起きても動じない心構えだけはしておきたい。