奈良岡朋子(ならおか・ともこ)
1929年東京生まれ。女子美術専門学校(現・女子美術大学)在籍中に第1次民藝附属養成所に入所。50年に劇団民藝(第二次)設立にかかわる。約75年間民藝の舞台に立ち、亡くなるまで代表を務めた。主な出演作に『イルクーツク物語』『奇蹟の人』『セールスマンの死』ほか。紀伊國屋演劇賞、菊田一夫演劇賞はじめ、多くの演劇賞を受賞。2013年からは毎年夏に『黒い雨』の朗読を続けた(写真提供:劇団民藝)
劇団民藝の創設時から看板女優として活躍し七十余年。舞台をはじめ、映画やドラマでも親しまれた奈良岡朋子さんが3月23日にその生涯を閉じました。享年93。劇団の演出家として奈良岡さんの俳優人生に深くかかわってきた姪の丹野郁弓さんが、その人生を語ります(構成=篠藤ゆり 撮影=藤澤靖子)

<前編よりつづく

始末屋だけど贅沢も好き

奈良岡さんが歳をとるにつれ、劇団の先輩・後輩という関係を、叔母と姪という関係がじわじわと侵食していった気がします。

たとえば稽古の終了が遅くなり、「お腹すいたよ~」と言われたら一緒に夕食を取る。とくに80歳で免許を返納してからは、私が一緒に車で家に送るなど行動を共にすることが増えました。

免許と言えば、面白い話があります。奈良岡さんは、石原裕次郎さん主演のドラマ『太陽にほえろ!PART2』で、2代目ボスの役をつとめました。あるとき検問で車を止められたら、運転席に座っているのが奈良岡さんだと気づいた警官が、「あっ、ボス!おつかれさまです」と敬礼をし、免許の確認もせずにスーッと通してくれたとか(笑)。まさに国民的ドラマならではですよね。

ちなみに石原裕次郎さんとは個人的にも気が合っていたようです。美空ひばりさんとも仲良しで、「裕次郎さんやひばりさんと贅沢に遊びたい」などと言っていました。

奈良岡さんは、普段はとても始末屋です。でも新劇という地味な世界にいながら、よくここまでやってきたと自分を褒めたかったんじゃないでしょうか。だから、たまには思いっきり贅沢をしたかったのかもしれません。