劇団民藝の創設時から看板女優として活躍し七十余年。舞台をはじめ、映画やドラマでも親しまれた奈良岡朋子さんが3月23日にその生涯を閉じました。享年93。劇団の演出家として奈良岡さんの俳優人生に深くかかわってきた姪の丹野郁弓さんが、その人生を語ります(構成=篠藤ゆり 撮影=藤澤靖子)
叔母・奈良岡朋子の遺言
3月22日の夜、自宅で寝ていた叔母・奈良岡朋子の息が荒くなっていると、ヘルパーさんから電話がありました。すぐ駆けつけて緊急入院。とはいえ正直、それほど深刻に受け止めてはいなかったんです。というのも数年前から仕事が入るたびに、何度となく倒れていましたから。
もともと心臓が弱いのに、気分が高揚し、夜も寝ないで台本と格闘するからでしょうか。稽古場に来ないので心配して部屋を訪れると、倒れている。でもしばらく病院でお世話になると、必ず復活します。
ですから今回も復活すると信じていたのです。そこでその晩もいったん帰宅したのですが、翌日、心肺停止しました。
入院期間は24時間に満たないものでした。みんながベッドを囲んで泣きながらお別れをするといったこともなく、ポッと逝ってしまったところが、実に奈良岡さんらしい。潔いところがありましたからね。
常々、「私が死んでも絶対に葬式はやるな。これは私の遺言だ」と強い口調で言っていたので、お別れの会などは行いませんでした。