山川さん「ラグビーの代表は、なぜ国籍を問わないのだろうか」(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
2023年9月8日、日本時間深夜にフランスで開幕したラグビーワールドカップ2023。日本代表は9月10日にトゥ―ルーズスタジアムでチリとの初戦を迎え、18日にイングランドと対戦します。日本代表選手の足跡を追った山川徹さんの記事を再配信します。

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ラグビーの代表選手は、居住年数など一定の条件を満たせば、国籍と異なる国の代表としてプレーできます。多様なルーツを持つ選手たちは、なぜ「日本代表」となることを選んだのでしょうか。それぞれのライフヒストリーと、秘められた熱い思いをノンフィクションライターの山川徹さんがたどります。山川さんは「ラグビーの代表は、なぜ国籍を問わないのだろうか」と、その理由を考えてみたそうで――。

ラグビーの代表が国籍を問わないのはなぜか

そもそも、ラグビーの代表は、なぜ国籍を問わないのだろうか。

私が東京都築地にある水炊きの名店「新三浦築地本店」を訪ねたのは2018年秋のことである。

「確かに、はじめてラグビーをごらんになる方は、なんで日本代表なのに外国の選手ばかりなんだと戸惑うかもしれませんね」

そう語るのは、早稲田大学ラグビー部OBの白井善三郎である。

1932年生まれの彼は「新三浦」を営みながら、1960年代後半から1990年代にかけて早稲田大学ラグビー部の監督や、日本代表強化委員長などを歴任した。

戦後の復興から高度経済成長、そしてグローバリゼーションが進む現在までをラグビーとともに歩んできた人物だ。

「ノフォムリ、ラトゥ、イアン・ウイリアムス、ファーガソン……」

白井は、かつて日本代表として戦った海外出身選手の名を指折り数えた。

「みんな仲間という感じですね。あのころは、代表を強化したいから強豪国から選手を引っ張ってくるなんて発想はなかった。日本で暮らして日本で活躍している外国人選手を自然に日本代表の合宿に呼んだんです。たとえば、ラトゥは大学時代から日本でプレーし、9年間もジャパンとして戦ってくれた。彼は、私たちにとって一緒に目的に向かう同志でした。

関係者の間には、海外出身だから選ばないとか、日本人を優先しようとか、そういう意識はありませんでした。もちろん代表選手たちも、外国人だから、日本人だから、なんて区別もなかった。当時は3年居住のルールもなく、その国に居住しているか、祖父母どちらかの出身地で代表になれた時代でしたから」

白井は、ラグビーの代表チームが国籍にこだわらない理由を、このスポーツが生まれた歴史からひもといていく。