「血のつながらない親族よ」と言われて

もし大家さんと出会っていなかったら、僕は相変わらずひとり小さな部屋のなかで、自分では何もしないくせに、他人の悪口かなんか言ってスッキリするような生活を、「しあわせ」だと思っていたでしょう。でも大家さんと出会って、僕は誰かと桜を見たり、旬の桃をいただいたり、節分の豆を一緒にまく暮らしが「しあわせ」だと知ることができました。

季節の繰り返しは毎年同じようでいて、少しずつ変わっていきますよね。大家さんが年をとられ、それまでできていたことが難しくなっていく姿も描くことになりました。入院生活の後は一人暮らしが困難になって、でも施設に入られてからも相変わらず周囲の人とすぐ仲良くなったり、僕に「伊勢丹で美味しいお寿司を買ってきて」とワガママを言ったり。

あるとき、お見舞いに行った僕に病院の人が「親族の方ですか?」と訊いたんです。僕がどう説明しようとおたおたしていると、大家さんが「そうよ、血のつながらない親族」っておっしゃった。たぶん大家さんとしては、いつものウィットだと思うんですよ。だけど僕はその言葉がやけに胸に響きました。

親族の方と違って、僕なんかはたまに時間を見つけて顔を出すだけの距離感だから、良かった部分もあると思います。僕自身独身ですから、将来を考えると「血のつながらない親族」をいっぱい作らないといけないかもしれないですね。友だちの子どもに優しくしておこうとか。(笑)