大家さんが血のつながらない僕とこんな関係を築けたのは、大家さん自身が人とのお付き合いを大事にする方だったからだと思います。漫画にも描いた女学校のお友だちや、何十年も前に退職した職場の後輩だったえみちゃん。それ以外にも、出会った人をみんな大切にする。
たとえば鹿児島の知覧へ一緒に行ったとき、3日間、同じハイヤーの運転手さんをお願いしたんです。それから何年もして、「その方に今年もおミカンを送った」という話を聞いて、えーっ、まだ連絡を取ってるんですか、と衝撃を受けました。僕なんか、旅の翌日に「お世話になりました」と電話をしてそれっきりなのに。
入所した施設でも、外国人のスタッフを「南方から来た人なの。優しいのよ」と僕にも紹介してくれる。そうして一つ一つの縁を大切にするなかに、僕も入れてくれたんだなあって思います。
そんな大家さんに、僕は自分のできることをすべてやれただろうか。もっと何かできたんじゃないかって。それは今も思います。大家さんは18年の8月に亡くなりました。まさかという気持ちが強く、描けなくなって3ヵ月近く休載してしまいました。でも「もう一冊描く」と約束していましたから、気持ちを奮い立たせて。どうにか後半を描き、ちょうど1年後の今年夏、『大家さんと僕 これから』という単行本になりました。
本のなかには、大家さんが亡くなったことを僕が知る場面はありません。その代わり、大家さんから聞いた、一度だけスキーに行った話をもとに、雪のなかで大家さんが少しずつ遠のいていくシーンを描きました。