幸せな最期を迎えるための三つの条件

「生き方も“逝き方”も自分らしく」というのは、私が考える幸せな最期のあり方です。これまで数多くの看取りをしてきて思うのは、幸せな最期は、自分らしい“逝き方”を選ぶことで訪れるように感じています。

幸せな人生の最終段階を過ごすために、考えておきたいことが、大きく分けて三つあります。

それは人生の最終段階を迎えた時の、
(1)過ごす場所
(2)やってもらいたいこと(医療や介護)
(3)やりたいこと(夢)
の三つです。

まず、(1)の最期を過ごす場所には、自宅、施設、病院という選択肢があります。メリット、デメリットがそれぞれありますが、まずは過ごす場所に選択肢があり、それを選択できる可能性があることを知っていることがとても大切です。

なぜなら「本当は家で過ごしたい」と願いながら入院している人が、「望めば家に帰ることができる」という選択肢を知らないままに、病院で亡くなってしまうようなことを見てきたからです。このように選択肢を知らないがために希望が叶わないというのは、とても悲しいことです。

(2)の受けたい医療や介護も同じです。例えば胃瘻などの延命治療は、一度開始すると途中でやめることが簡単にはできません。ですから「とりあえず」と安易に開始することは避け、正しい情報をもとに、きちんと考えて納得のいく選択をすることが大切です。また、受けたい医療や介護を考えることで、過ごしたい場所が変わってくることもあるでしょう。

そして(3)のやりたいことについては、「やる時期」が大切です。病気によっては、たとえ余命1ヵ月であっても、一見元気に、少し調子が優れない程度に見える場合があります。すると、「もう少し体調が良くなってからにしよう」とやりたいことを先送りにしてしまいがちです。

ですが実際は、その後に病状が進んで動けなくなってくるため、結果的にやりたいことができず、望みを叶えられるチャンスを逃してしまうことがあるのです。そうならないために、正しい情報を知って選択してほしいと心から願います。

※本稿は、『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社)の一部を再編集したものです。


在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(著:中村明澄/講談社)

もしあなたがあと余命数か月と言われたら。あなたは何をしたいですか? 残された人に何を伝えたいですか? どのような最期を迎えたいですか?

1000人以上を看取ってきた在宅医が、最新の医療の常識をもとに考える最良の最期を送るためのヒント。