自分がどのような最期を迎えたいか、考えたことがあるでしょうか。相続やお墓のことを考える方は多いものの、最期の日までの過ごし方を考えている人は意外と少ないようです。幸せな最期を迎えるために必要なのは「きちんとした知識と自分たちによる選択」と語るのは、在宅医療専門医の中村明澄先生。中村先生は最期の過ごし方について「正解がないからこそ、自分たちで選択して決めていくことが大切になってくる」と言っていて――。
医師に従う段階から医師とともに考える段階へ
病気や怪我をしたら病院に行き、そこで医師が出した方針に従って治療を受ける―。これはみなさんが幼い頃から、ごく自然な流れとして受け止めてきた医療との向き合い方だと思います。
ところが人生のある時期に差し掛かると、たとえ同じ病気であっても、医師が出した方針に従うのではなく、医療者と一緒に方針を考える段階に変わってきます。
例えば、肺炎と診断され、医師から「入院して治療したほうがいい」と言われた場合。
もし40〜50代でしたら、基本的には医師のすすめに従って入院すると思います。しかし、これが80代、90代の高齢者となるとどうでしょうか。
入院した場合、仮に肺炎が治っても、入院によって足腰が弱って寝たきりになる可能性もあります。本人のその後の人生を考えると、入院がベストの選択と言えるのか、難しくなってきます。つまり、人生の最終段階が近づくほどに、「絶対にこの選択がいい」という医療的な正解がなくなってくるのです。
医師から「どうしたいですか?」と意見を求められるようになるのは、このように医療的な正解が一つではなくなってきた時です。これまで医師が決めた方針に沿うのが当たり前としてきた多くの人は、「先生はなぜ突然、こちらに意見を求めるのだろう?」と戸惑うかもしれません。
しかし正解がないからこそ、自分たちで選択して決めていくことが大切になってくるのです。そして、ひいてはそれが、納得のいく最期につながってくると感じています。