「人気子役」の実感はぜんぜんなかった
そんな新たな一歩を踏み出した加藤さんが主演した最新映画が『#ハンド全力』(7月31日公開)。熊本地震を機にハンドボール部をやめ、閉塞感を持っていた高校生のマサオが、SNSに投稿した昔のハンドボールの写真が偶然バズる。そこから“熊本の復興役”と世間から誤解され、試行錯誤しながらも、震災後の町で生きる仲間との姿を、発信していくという物語だ。
今回は、僕にとってはほぼ初めての主演という感覚だったので、撮影が始まるまではすごく心が重かったんですよ。主演は、小学校3年生のときに映画『忍たま乱太郎』で経験しているんですけど、そのときは主演ということを意識していなかったので楽にやれたんですね。
でも、今回の場合は、「主演の立場って?」「みんなを引っ張っていくには、どうしたらいいんだろう?」って、あれこれ悩んじゃって。同世代の役者さんもたくさんいるし、安達祐実さん、田口トモロヲさんといった先輩方の中で主演を張るなんて、どれだけ責任重大なんだろう? と……。
でも、撮影に入るときに松居大悟監督が「清史郎がカラを破って楽しむことが今回の重要な鍵だから、気負わずに楽しもうぜ」と言ってくださって。いざ撮影に入ってみたら、みんなでワイワイ。本当の学校で過ごしているみたいな感じで、ヘンな主演意識はとっぱらわれて、映画の中でも自然に青春できてよかったです。
僕が演じたマサオは、それまでごく普通の高校生だったのが、突然、人気者になって舞い上がっちゃう、少しムカつくところもあるヤツなんです(笑)。僕自身は、子役として活動していたとき、自分が人気者になったという実感はあまりありませんでした。小さい頃からお芝居をすることが楽しくて、その楽しいことをずっと続けてきただけなので、環境が少し変わっても、自分の感覚はまったく変わらなかったんですね。
もちろん、道を歩いていると声をかけていただくこともありましたが、「こども店長」としてCMに出ていたときも学校には毎日ちゃんと通っていたし、友達もそれまでと同じように普通に接してくれていました。
子役として有名になると、学校でいじめられたりするという話も聞くと思います。僕の場合も、授業を早退して撮影に行くと、「ズル休み」と言われたことも。でも、そのたびに「僕は好きなことをやっているんだ」と。みんなが放課後に、野球やサッカーのクラブに通うように、僕もお芝居が好きなので、テレビや舞台に出ているだけだから一緒でしょって答えて。
そもそも、小学生の頃は、お芝居をすることを「仕事」とはとらえていなくて、「習い事」のひとつという感覚でした。僕がそういう姿勢だったので、最初の頃はこの芸能活動に違和感を持っていたクラスメイトも、僕がテレビや映画に出ていることを必要以上に意識しなくなって、「今日は、何の撮影なの?」「映画? いってらっしゃい」って、普通に送り出してくれるようになりました。
両親にも、「やめたかったら、いつでもやめていい」って、ずっと言われてきました。幼稚園に上がるとき、小学校に入学するときなどの節目には、「どうする? これからも続ける?」って必ず聞かれて。でも、そのたびに、僕は「お芝居が好きだから、やめない」と答えてきました。僕にとっては、何をするにも、「自分が楽しいか楽しくないか」が一番重要。逆にいえば、楽しくなくなったら、やめてしまうかもしれません。