子どものためにカレートレーニング
子どもが生まれたとき、一瞬「子どものためにカレートレーニングしようと思う」と言った、健気な新米パパが忘れられない。
カレー粉の入ったスナックから始めて、毎日お味噌汁にぱらっとカレー粉を振りかけたりして、なんとか免疫をつける努力をしていた。
体をよじりながら顔をこわばらせて口に運ぶその姿は、とても人が食べられるものを食べているように見えなかった。どこかの星から来た宇宙人に初めてものを食べさせたら、きっとこんな感じだろうなと思った。
残念ながら子どもがカレーを食べるようになるまでに克服することはできず、諦めたころからなお一層「これは人の食い物ではない」と言い出した。もはや警察につきだしたほうがいいのではないかとさえ感じてしまう。
…まったく。
何を隠そう、わたしが新人アナウンサーのとき初めて行った海外ロケ先は、インドだった。
昔「びっくり人間」を紹介する番組が人気で、わたしが行った時すでに「あのびっくり人間は今!?」のような追っかけ取材だったのだが、私はインドのカルカッタ(今はコルカタと言うそうな)に「世界一爪の長い男性」を訪ねた。
その時スタッフと一緒に街の中の庶民的な食堂で食べた本場のチーズチキンカレーは、度肝を抜かれたような衝撃の味だった。あまりサラサラした本場カレーは好みではなく、海外で慣れないものを食べるのも怖かったのに、一口食べた時私の目が見開かれて倍くらい大きくなったのを見て、現地の人がゲラゲラ笑っていた。
それくらい美味しかったのだが、わたしが「カレー」と言っているのは日本の家庭で作るカレーのこと。スーパーで売られている市販カレーはほぼ限られているが、紛れもなくその組み合わせによってお家の数だけある、「家カレー」のことである。
うちのカレーは玉ねぎを飴色になるまで炒めて、思いつくまま隠し味のスパイスを効かせるくらいで、あとはその都度何種類かの市販のルーを甘口・中辛・辛口の配合を変えて作るだけ。何の捻りもないのに、我ながら倒れそうになるくらい美味い。でもそのレシピには無限の組み合わせがあって、同じ味には二度とならないのが残念だ。まあとにかくどう転んでも、美味い。
昔のブログには、翔大の小さいときにいろいろ子育てに悩みすぎて、あれこれ考えながら長々と玉ねぎを炒めて作るカレーを「熟考カレー」などと呼んでいた。炒め玉ねぎがドロドロになって醸し出す絶妙な味わい。甘口だが子どもたちも米飛沫を上げておかわりしてくれていた。