私たち消費者の要求に応えてくれる、接客のプロたち。お客様の笑顔のために懸命に仕事をする彼らのもとには、時にとんでもない“モンスター”が現れるそうです。その対処法から、私たちが日常で出会う困った人たちに接するヒントを探してみましょう(構成=篠藤ゆり)
●覆面座談会メンバー●

吞屋大吉(のみや だいきち)
都内の居酒屋で店長を務める40代男性。カラオケ・飲食店業界歴は20年

百田均子(ひゃくた きんこ)
100円均一ショップに勤務する30代女性。20代から店長になる

生活品乃(せいかつ しなの)
生活用品メーカーの消費者相談室で勤務経験のある60代女性

 

理不尽が当たり前の世界

百田 私は100円ショップに10年ほど勤務していますが、クレームで一番多いのは、商品の不具合です。たとえば「時計の目覚ましが鳴らなくて仕事に遅れたんだけど、どうしてくれるんだ」など。正直、100均の時計にあまり過度な期待をしていただいても、とは思いますが(笑)、基本的には新しいものに交換します。

呑屋 飲食店の場合、最近はネット社会ならではのクレームも増えました。ホームページに載せる写真と実際に出す料理がかけ離れないよう気をつけていますが、お客様はそうとらない場合もある。ホームページの文言から抱かれるイメージと、実際に召し上がった時の実感の差がクレームになる場合も。居酒屋で最近流行っている昼間のママ友宴会の場合は、とくに気を使い、さりげなく“盛り”をよくしたり(笑)。飲食業で一番怖いのは、口コミサイトです。

生活 自分が行って「いいお店だな」と思っても、口コミでは評価が低い場合もけっこうありますよね。

呑屋 あくまで主観で書いていますから。しかもみんなが料理評論家みたいなことを書く。こちらが納得できない内容も多く、「どれだけ味がわかるんだ」と言いたくなりますが(笑)。不思議なことに、たいていの場合、どのお客様が書いたのかがわかるんです。

生活 私は生活用品メーカーの消費者相談室で約30年、主に電話対応をしてきました。商品に不具合がある場合は、お詫びして交換するという、マニュアルに従った対応でなんとかなります。やはり難しいのは、香りに対する不満など、商品がお客様の期待とは違った場合です。シャンプー後の仕上がりが気に入らないなら、ヘアスプレーやドライヤーの使い方まで全部ご説明して、納得していただくまで何十分もかかる。でも納得されれば、シャンプー以外のヘアケア製品も買っていただける可能性があるわけです。

呑屋 ただ、なかには理不尽なクレームを言ってくる方もいます。そういうお客様もいると認識していないと、この世界ではやっていられない。僕は20年ほど接客業をやってきましたが、最近思うのは、命までとられることはないだろう、と。物を投げられたり襟首をつかまれたりしても、今のところ生きているので。(笑)

百田 私も上品そうな奥様から、「あなた、育ちが悪そうな顔をしているわ」と暴言を吐かれ、商品を投げつけられたことがあります。妊娠中だったこともあり、「これから親になるという時にあんなこと言われちゃった……」と、かなりへこみました。でも、その日のうちに家族に話して、寝たら忘れる、というふうにしています。そうじゃないと、ストレスがたまって体がもたないですから。

 

「寂しい人」がクレーマーに

呑屋 クレームを受けたら、まずは相手が言いたいことを聞いてあげないと、場がおさまらない。クレーム体質の人は、自分の論を通したいか、もしくはただクレームを言いたいだけなので。とりあえず「そうですか、そうですか」と、聞いているしかない。ふりをするだけでいいこともありますが。

生活 電話対応の場合も、まずは「傾聴」して、何が不満なのか、あるいはただクレームをぶつけたいだけなのかを冷静に判断し、作戦を練ります。一次対応で納得してもらえないと、二次クレームになってモンスター化するというのは、これまでの経験上はっきりしているので。