紙を素早く動かしながら切るため、どんなできあがりになるのか客席からは予想がつかない。「うちの師匠の教えです。途中でわからないほうが、完成版を見た時の感動が大きいでしょう?」(撮影:大河内禎)
客席からお題を受けると、その場で下書きなしに白い紙にハサミを入れていく。そしてものの数分で、一筆書きの見事な切り絵ができあがる――そんな「紙切り」を57年、毎日高座で披露している林家正楽さん。紙切りの魅力とは?(構成=上田恵子 撮影=大河内禎)

<前編よりつづく

寄席の芸人は品がないといけない

師匠にはよく、「寄席の芸人は品がないといけないよ」と言われました。昔は寄席に出ていない、お祭りやイベントを専門にやっている芸人さんがたくさんいたんです。でもそういう人たちはついお客さんに媚びたり、ウケようとしてきれいじゃない言葉を使ってしまう。寄席の芸人はそれじゃダメだよ、というわけです。

なぜかと言えば、昔の日本橋、上野、浅草、新宿あたりの寄席は商人(あきんど)さんたちが、仕事を終えて風呂に入ってからフラッと来る場所だったから。

大きな店の旦那は芸者遊びをして、その奥さんや子どもは三味線や日本舞踊を日ごろから嗜んでいる。つまり芸をよく知る人たちがお客として来るから、そこを納得させなきゃいけない。

お囃子の音だけで、「なあに今日の三味線は? ひどいねえ」なんて言われるんだから、たまったもんじゃないですよ。怖い怖い。(笑)

ただそれも、店と住まいが一緒だったからできたことでね。最近は店だけ都心で、家は郊外でしょ? だからそういうお客さんも、すっかりいなくなっちゃいました。

〈線香花火〉。ひとつなぎになるように切るため、切り抜いた跡も同じ形に。「これだとゴミも出ない。紙クズがいっぱい出ると、前座さんが片づける時に大変ですから」