本領から引きはがされるのは辛い

こうした武士の思いを前提に契約されたのが、主従の関係です。

従者は主(あるじ)に命を捨てて奉仕する。主人はその代償として、従者の「家」の本領を安堵し、新たな「本領」となる土地を与える。武士たちは自身が討ち死にしても、不動産によって支えられた家が繁栄する限り、祖先として祀ってもらえる。

そんな信念があるからこそ、武士は苛烈に戦えたのです。

そして、こうした武士の本質を思えば、本領から引きはがされることは、たいへんに辛い。

そもそも右も左も分からぬ土地で、具体的な「統治するもの―統治されるもの」の生産関係を構築するのも実に面倒なものですが、長年の本領、「父祖の地」から引き離されることは家康にとって、精神的にきつかったことでしょう。