国外からの「ロンドン買い」
前世紀末の最初のロンドン勤務と、今世紀明けのロンドン勤務との風景の違いはそれだ。それに加えて車格の向上。
もともと車の手入れ度合いでは断トツの日本からやってきた者にとって、ロンドンの車は汚かった。
ボディカラーとしてなぜかベージュ、灰色、くすんだ青が多いのに加え、ほこりだらけだからパッとしない。車に触れると服が汚れるという現象におののいた。それが多少清潔になったのはマイナーな変化で、大きな変化は高級車の増加だった。
ポルシェなどは昔から走っていたが、今では鉋(かんな)のようなフェラーリやむっちりしたベントレーがあたりまえのように走りまわっている。
ご婦人方もランドローバーや、ポルシェはポルシェでもカイエンなどの大型SUVで学童らの送り迎えをするようになった。
むだに大きくてじゃまなので、チェルシー・トラクターと揶揄(やゆ) される大型四輪駆動車である。
夏になるとハロッズがあるナイツブリッジ周辺でもギラギラのフェラーリとか原色のランボルギーニがドロロドロロと唸(うな)っているのを見かけるが、あれはアラブ首長国連邦とかクウェートあたりから、夏休みにスーパーカーと一緒にやってきた御曹司の自己主張なのだ。
あちらでは夏に車を走らせると鉄板焼きになるので、文字通りの避暑をかねてやってくる。彼らはエアバスのカーゴ専用機をチャーターし、一機に30台くらい乗せて飛んでくる。ナンバープレートがアラビア語のままなのはそのせいだ。
ロンドンへの投資残高の数字では今も昔も相変わらずアメリカ人が一番多いけれど、不動産投資にかぎると中華圏(香港、シンガポール、マレーシア、中国)だけで全外国人投資の6割以上を占めるという。
特に香港人のロンドン買いは英国の香港返還決定のころからぐんぐん増えていた(さらに北京の香港いじめ、かつての首相ボリス・ジョンソンの香港人ウェルカム政策発表後、この傾向はさらに加速している)。