服部良一との出会い

しかし、この時、シヅ子の運命を共に切り開いていく、音楽のパートナーであり名伯楽ともいえるプロデューサーとなる服部良一と出会ったのである。

服部が最初にシヅ子と会ったのが稽古場だった。OSSKのトップスター、笠置シヅ子はSGDのスタッフの間でも話題の中心で、服部は「どんなすばらしいプリマドンナかと期待に胸を膨らませた」と自伝で書いている。

裏町の子守女か出前持ちの女の子のようだ(写真提供:Photo AC)

スタッフ、キャストでごった返す稽古場に現れたのは…薬びんをぶらさげ、トラホーム病みのように目をショボショボさせた小柄の女性がやってくる。

裏町の子守女か出前持ちの女の子のようだ。まさか、これが大スターとは思えないので、ぼくはあらぬ方向へ期待の視線を泳がせていた。

ところが、「笠置シヅ子です。よろしゅう頼んまっせ」と、目の前にきた、鉢巻で髪を引き詰めた下りまゆのショボショボ目が挨拶する。

ぼくは驚き、すっかりまごついてしまった。(「ぼくの音楽人生」93年・日本文芸社)

これが服部の第一印象である。