「これが世間で騒いでいた歌手か」

オフステージのシヅ子は、飾らない自然体だった。また前述のように、倹約生活を心がけているので、稽古場で見栄を張って着飾ることもなかった。

しかし、その夜の稽古で服部はシヅ子のパフォーマンスを目の当たりにして、思いを新たにする。「クイーン・イザベラ」のリズムにのって、舞台の袖から飛び出してきた女の子は、昼間の目をショボつかせた冴えない子とは全くの別人だったのである。

舞台用のメイクで、3センチほどの長いつけまつげをつけた目は、大きく見開き、大きな口で、歌声をシャウトする。服部が指揮をするオーケストラの演奏、リズムにピッタリと乗って「オドッレ、踊ッれ」と掛け声と共に、激しく全身で踊る。

譜面の真ん中に、シヅ子がいて、抜群のスウィング感で、全身でナンバーを表現していたのだ。

服部は「なるほど、これが世間で騒いでいた歌手か」と感心した。この時のファースト・インプレッションが、のちに服部と笠置コンビによる戦前ジャズ・ソングのビッグバンにつながっていく。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。


笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

2023年NHK朝の連続テレビ小説、『ブギウギ』の主人公のモデル。
昭和の大スター、笠置シヅ子評伝の決定版!半生のストーリー。

「笠置シヅ子とその時代」とはなんだったのか。
歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて「ブギの女王」として一世を風靡していく。彼女の半生を、昭和のエンタテインメント史とともにたどる。