当事者は本当の思いを伝えられない

今は前向きに暮らしていますが、発症当初からそのように考えられたわけではありません。認知症であると公表したことで、地域の人からジロジロ見られたり、心ない視線を投げかけられたりして、ひとりで外出するのがこわい時期もありました。

当時は、認知症というと「何もできない」「周りに迷惑をかける」などマイナスのイメージばかりで、介護や施設への道をたどらされるのが一般的でした。そうした偏見や誤解が、本人たちの生きることへの希望を削いできたと思います。多くの場合は人に迷惑をかけたくないのでガマンしていますし、言葉がうまく出ない人は、「そうじゃない」と言い返せないだけ。自分の本当の思いを伝えられないんですよね。

認知症の人が何かをやろうとしてもできないのは、努力が足りないからではありません。「できるように頑張れ」と言うのではなく、できないと認めたうえで、「じゃあ、どうすればいいか」と一緒に考えることが大切なのではないでしょうか。

それに、認知症になると新しいことを覚えられないと思いがちですが、そんなことはないんですよ。私は、携帯電話をスマートフォンに替えました。簡単な操作は、何度も繰り返せば覚えることができます。予定が入ると台所のカレンダーだけでなく、スマホのスケジュール機能にも書き込んで何度も確認。忘れる不安を軽減できています。わからないことは、普通の人と同じようにネットで調べることもありますね。

2014年には、全国の仲間とともに「日本認知症本人ワーキンググループ」を立ち上げました。認知症の人が希望と尊厳をもって自分らしく暮らせる地域をつくり出すために、さまざまな活動をしています。認知症であることを受け入れて、周囲に隠さず本人としての発信をしていけば、よき支援者や仲間に巡り合って、これまで通りの生活が送れることを伝えたいのです。

会の本人メンバーは、仕事を続けたり、スポーツなどやりたいことを楽しんだり、それぞれの生活の工夫を伝えてくれます。こうした生の声や姿は、本人はもちろん、多くの人に「認知症になっても大丈夫なんだ」と、希望をもってもらえるようです。

それから本人として伝えたいのは、元気なうちに暮らしを整えておくのが大事だということ。認知症ではなくても、何でもそのほうがよいのかもしれませんが。(笑)