内藤先生「腸内フローラは地域によって特徴があります」(写真提供:Photo AC)
腸内環境をより良い状態にするため、食事に気をつけたり、運動をしたりする活動を指す「腸活」。近年ではブームにもなっていますが、腸内細菌を長年研究してきた消化器専門医の内藤裕二先生によると、人の腸内細菌のかたまりである「腸内フローラ」がそのカギとなるそうです。「腸内環境が改善されれば、腸内細菌が関わっていると考えられる病気を予防できる可能性がある」と話す内藤先生ですが、「腸内フローラは地域によって特徴が」とも言っていて――。

研究方法が20年で劇的に変わった

20世紀の腸内細菌研究は、ヒトの便から採取した腸内細菌を培養して調べていました。しかしこのやり方では腸内細菌を網羅的に調べることができません。ところが21世紀に入ると、腸内細菌研究のやり方はガラリと変わります。

その1つは、腸内細菌の「メタゲノム解析」です。

この場合の「ゲノム」は腸内細菌の遺伝子全体を意味します。「メタ」は超越するという意味なので、メタゲノムは腸内細菌を網羅的に遺伝子解析することを意味します。さらに腸内細菌の機能も網羅的に解析することができるようになりました。

もう1つは、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏(田中耕一記念質量分析研究所所長)が発明した質量分析計です。

質量分析計は、分子レベルの重さ(質量)を量ることができる装置。それによって、腸内細菌がつくる代謝物質などが、高感度で測定できるようになりました。

腸内細菌はヒトと共生する生き物です。腸内でヒトが食べたものから栄養を摂って、アミノ酸とか酢酸とか、いろんな物質を代謝しています。

この代謝物が体にさまざまな効果をおよぼしているのですが、質量分析計があればそうした微細な物質のことも詳しく調べることができます。

私たちは2016年ごろから、ヒトの「腸内細菌叢(そう)」のメタゲノム解析を開始しました。腸内細菌叢は菌種ごとのかたまりのことで、一般には「腸内フローラ」と呼ばれています。そこで本記事でも、今後は腸内フローラと記すことにします。

腸内フローラのメタゲノム解析では、1000例を超えるデータが集まり、日本人の腸内フローラに関する貴重なデータを得ることができました。ここから、日本人の腸内フローラの5つのタイプがわかったのです。