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誰も“ビートルズ” を知らない世界で

もしもこの世の中にビートルズが存在しなかったら? 自分以外に、誰も彼らの音楽を知らなかったら? 

売れないシンガーソングライターのジャックは、このありえない事態に遭遇した。発端は世界規模で発生した謎の大停電。彼は真っ暗闇で交通事故に遭い、目覚めたときには世界が少し変わっていた。だがそれは、彼にとっては大きな違いだった。わずか12秒の間に、ビートルズの存在が全世界から消えてしまったのだ。この僥倖に、彼らの音楽を自分が演奏しようと閃いた。思惑どおり大ヒットし、音楽で有名になりたいというジャックの長年の夢は叶うのだが……。

監督は『トレインスポッティング』(1996年)、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)のダニー・ボイル。脚本は『ノッティングヒルの恋人』(1999年)、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)などロマンチック・コメディの名手リチャード・カーティス。

ジャックを演じるヒメーシュ・パテルはイギリスのコメディ俳優だが、映画界ではまだ無名に近い。しかし、このキャスティングが功を奏した。まず、歌がうまい。幸運を利用する後ろめたさを抱きつつ、ちょっと冴えない平凡な青年が“ビートルズ”という魔法を手にして、ミュージシャンとして洗練されてゆく様子が自然に映る。そして、近すぎて幼馴染のエリーに対する自分の気持ちに気づかない鈍さも、親近感を抱かせる。スターとなったジャックと故郷で教師のままのエリー、離れてみてわかる恋心のもどかしさをコミカルかつスイートに演じて、パテルはジャックを愛すべき男に仕上げた。

エリー役のリリー・ジェームズはTVドラマ『ダウントン・アビー』、映画『マンマ・ミーア!ヒア・ウィーゴー』(2018年)などで知られるイギリスの人気女優だ。

当代随一の人気と実力を誇るミュージシャン、エド・シーランが本人役で登場していることにも注目したい。ジャックの音楽に魅了されて、彼を自分のコンサートの前座に誘う。さらには、彼と即興で曲作りを競い、エド・シーランが“ビートルズ”に挑戦するという成り行きを、本人が楽しんで演じている。

ジャックの「イエスタデイ」を初めて聴く友人が、「コールドプレイ(イギリスの人気バンド)の“FixYou”のほうがいい」と呟くのは、ちょっとした捻り。だが、ビートルズの美しく覚えやすいメロディと、友情や恋、身近な日常を詩的に綴る歌詞は時代を超えている。50年前に作られたいくつもの楽曲が、新しい音楽として現代人の心に響くという設定に無理なくはまるのは、彼ら以外には考えられない。ビートルズはもちろん、音楽を創り出す人への愛に満ちた物語は温かく、爽やかだ。

 
 

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イエスタデイ

監督/ダニー・ボイル
脚本/リチャード・カーティス
出演/ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、エド・シーラン、
ジョエル・フライ、ケイト・マッキノンほか
上映時間/1時間57分
イギリス・アメリカ合作
■10月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国順次公開

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19世紀の北ベトナム。14歳のメイは親子ほど年が違う富豪のもとに、第三夫人として嫁ぎ、大邸宅で暮らし始める。健康な男子を産むように望まれているメイの目を通して、第一、第二夫人も住む邸宅内の日々が描かれる。彼女の成長、女たちのそれぞれの想いに心がざわつく。10月11日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開

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第三夫人と髪飾り

監督:アッシュ・メイフェア

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オランダの資産家ヘレーネ・クレラー=ミュラーはゴッホと同時代に生き、彼の死後に、その作品と出合う。ゴッホの足跡を追うとともに、無名だった彼の作品に魅かれて収集したヘレーネの慧眼、それにより設立された美術館に焦点を当てたドキュメンタリー。ゴッホの世界に浸れる至福の時間。10月25日より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

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ゴッホとヘレーネの森
クレラー=ミュラー美術館の至宝

案内人:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ