義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ?」
「あ、谷津さん……」
巡査部長がそう言って場所を空けた。代わって出入り口に姿を見せたのは、ヤクザが言うのもナンだが、見るからに柄の悪そうな男だった。
甘糟が言っていた谷津という刑事だろう。
谷津は、出入り口から本堂の中を見回した。見かけだけではなく、その仕草もまるでヤクザだと、日村は思った。
模倣するとしばしば本物より本物らしくなる。特徴が誇張されるからだ。そういう意味では、谷津は本物より本物っぽかった。
「あんたらは?」
藤堂たちに尋ねた。町内会の三人は、阿岐本と話をするときより、明らかに怯(おび)えていた。
藤堂がこたえた。
「伊勢元(いせもと)町内会の者です」
「で、そこにいるのは、綾瀬の阿岐本と日村だな?」
阿岐本がこたえた。
「そうです」