鴨川に架かる北大路橋を進む葵祭の行列。牛車の迫力に歓声が上がる(撮影◎筆者)
NHK大河ドラマ『光る君へ』の舞台である平安時代の京都。そのゆかりの地をめぐるガイド本、『THE TALE OF GENJI AND KYOTO  日本語と英語で知る、めぐる紫式部の京都ガイド』(SUMIKO KAJIYAMA著、プレジデント社)の著者が、本には書ききれなかったエピソードや知られざる京都の魅力、『源氏物語』にまつわるあれこれを綴ります。

前回「『光る君へ』で定子や倫子は「十二単」を着ていない。十二単は女房たちの仕事着、中宮は「普段着」で過ごしていた」はこちら

新緑に映える葵祭の王朝絵巻

5月15日、京都では葵祭(賀茂祭)のハイライト、「路頭の儀」が行われました。

平安装束に身を包んだ500人もの人々が、馬や牛車とともに、新緑の古都をしずしずと練り歩く。その起源は、『源氏物語』にも描かれた、五穀豊穣を祈願する祭事です。

王朝風俗の伝統を受け継ぐ葵祭では、前回、紹介したような平安装束を間近で見ることができます。小袿を着た女官たちに続いて、行列の華、「唐衣裳(十二単)」に身を包んだ斎王代(さいおうだい)を乗せた輿(こし)が――。付き従う童女(わらわめ)たちも愛らしく、沿道から歓声が上がります。

また、大きな牛車も見物客の人気の的で、外国人観光客も「牛が引いているんだね!」と驚いていました(牛車については、本連載の第1回に詳しく書いています)。今年は、替え牛として行列に加わっていた牛が、行事の終盤で15分ほど動かなくなるというハプニングも。8キロという長い行程に、疲れてしまったのかもしれませんね。

(本連載の1回目はこちら)

その葵祭の数日前、私がひそかに興奮した出来事がもうひとつありました。

5月12日放送の『光る君へ』第19回で、女房装束(唐衣裳)姿のまひろが登場したのです。橙色と山吹色の唐衣は、明るく瑞々しい印象です。うしろ姿も多かったため、女房装束の特徴である裳もしっかりと映っていました。

ききょう(清少納言)のはからいで中宮・定子と対面するという場面ですから、唐衣と裳をつけて正装するのは当然のこと。ただ、どうしても疑問に思うことが……。つつましい生活をしていたまひろの家が、あんな立派な装束を、どうやって揃えることができたのでしょう。成人式にあたる「裳着の儀」にまひろが身につけていた女房装束とも違うので、「あれっ?」と思ってしまいました。ひょっとして誰かに借りたのでしょうか?